和光中の教室には、なぜ傘立てが2つあるのか?
―学校施設からひもとく、和光中の「自治」―
和光中の教室には、なぜ傘立てが2つあるのか?
―学校施設からひもとく、和光中の「自治」―
傘立てが2つ?!
和光中学校の各教室には、傘立てが2つあります。
つくりも大きさも異なる傘立てが、2つ。なぜでしょうか?
きっかけは生徒の声から
もともと、教室にあった傘立てはひとつだけでした。
ただ、この傘立ては、傘を入れる穴が20しかありません。
和光中の1クラスの人数より少なかったのです。
全員が傘を持ってくる雨の日は、傘立てがぎゅうぎゅうに詰まってしまって、使いづらい。
この困りごとが、ある年の「生徒会要求」にあがりました。
生徒会要求とは、和光中の全校生徒からなる「生徒会」が、よりよい学校生活を送るために学校に向けて出す要望のことです。
和光の生徒たちは、自分たちの生活や学校のルールなどについて、いつも話し合いを重ねているのです。
要求を集めたのは、各クラス2名の「生活委員」たちです。
まず、あるクラスから出された「傘立ての穴が足りない」という困りごとが、生活委員会で共有されます。すると、生活委員を通じて各クラスがそれを「みんなの困りごと」として確認されました。
ところが、学校に要求することが決まる前に、生活委員を兼ねていた、当時の技術部部長が手を挙げました.
「傘立て、つくれますよ?」
技術部の部長は、自分が生活委員と技術部部長であることに、「相性いいやん」と思い、手を挙げたそう。
こうして、約半年後、技術部の手によって傘立てがつくられ、12クラスすべてに、追加の傘立てが置かれることになりました。
「思っていたよりも大変で、引き受けたことを後悔もしたけれど、喜んでもらえたので良かった」と語る技術部部長。
生徒会代表の執行委員たちが作成した広報紙。
技術部が作ることになった経緯が記されています。
「自治」とはなにか
和光中の校舎は、数十年前に建てられました。
決してなんでも揃う最新の施設ではありません。
そのぶん、和光中の生徒たちは、「自分たちの生活を自分たちでつくっていく」姿勢があります.
社会学者の富永京子さんと住宅研究を専門とする祐成保志さんは、日本の住宅の歴史をめぐる対談のなかで次のように述べています。
富永:私たちは街や建物に「じょうぶさ、丁寧さ」を求めすぎて空間の「消費者」になっているのではないかと考えました。空白のあるところに自治は生まれるように思います。
祐成:人が共に新たに住む場所を作るときには、そこに何が足りないかを探し、それが共通のニーズであるとお互い確認していくというプロセスをたどります。
いまは、生活に関わるほぼ全てを「サービス」として購入できる時代です。
たしかに、すべてをサービスとして用意してしまえば、話し合う手間も、作る手間もかかりません。
それでも、
ともに生活する空間について、気を配ること。
共通のニーズを探ること。
必要があれば、学校に求めること。そして、場合によっては、自分たちの手で作り出すこと。
和光中には、そうした自治のための「空白」がたくさんあります。
そうした空白をどのように埋めていくかを考えていくところに、和光中の「自治」は息づいているのです。
2つの傘立てには、面倒だけれども大切な、和光中の「自分たちのことを自分たちで解決する」という思いが込められていました.